この記事でわかること
「マーケティングの仕事は、AIでなくなるらしい」。そう書かれた記事や動画を見て、落ち着かない気持ちになった方は少なくないと思います。検索してみると、なくなると断言する記事と、なくならないと断言する記事が同じ画面に並んでいて、かえって判断がつかなくなります。
この記事では、その問いに「なくなる」「なくならない」のどちらかで答えることをしません。実務の感覚に近いのは、仕事という大きなかたまりで考えるやり方ではなく、日々の作業を一つずつ分けて見ていくやり方だからです。作業の単位で分けると、影響を受けやすいところと、そうでないところがはっきりしてきます。
この記事で扱う主な内容は、次のとおりです。
- 「なくなる」という言われ方が広がった背景と、その数字の読み方
- 仕事ではなく作業の単位で考えたほうがよい理由
- 影響を受けやすい作業と、人の側に残りやすい仕事の線引き
- 影響を受けやすい役割は誰か(ここは正直に書きます)
- いま何を確かめ、何から手を付ければよいか
AIをマーケティングの各工程にどう組み込むかという全体像はAIマーケティングとはで整理しています。本記事は、そのなかでも「担当者の役割はどうなるのか」という不安に的を絞って扱います。
「なくなる」という言われ方は、どこから来たのか
まず、この言葉が広がった背景を整理します。ここを飛ばすと、数字だけが独り歩きします。
検索結果の上位には、著名なマーケターの発言を紹介した記事や、テレビ番組の内容をまとめた記事が並びます。そこでは「業務の大半が数年でなくなる」といった、具体的な数字を伴った見方が語られています。数字が入っているぶん印象に残りやすく、そこだけが切り取られて広まった面があります。
ここで注意しておきたいことがあります。この種の数値は、特定の人の発言や番組の内容として紹介されたものであり、業界全体で検証された統計ではありません。誰が、どういう前提で、何を「業務」と数え、どの期間を見たのか。それによって値は大きく変わります。本記事では、こうした具体的な数値を自社の見通しとしては使いません。
では、比較的しっかりした調査は何を言っているのか。国際労働機関(ILO)は2025年に、約3万の作業(タスク)を対象に、生成AIの影響を受けやすい度合いを職業ごとに評価した報告を公表しています。そこで示されているのは、多くの職業では、まるごと置き換わるよりも、仕事の中身が変わっていく可能性のほうが高いという見方です。
ただし、この研究が測っているのは「作業が技術的に影響を受けやすいか」であって、実際に人が職を失うかどうかではありません。マーケティング職に限った雇用の結果を直接示したものでもありません。ここは分けて読む必要があります。
逆向きの記事もあります。「なくならない」と結論づけて必要なスキルを挙げていくものです。こちらも根拠は市場規模の伸びや求人数といった全体の数字で、担当者一人の日々の作業がどうなるかには直接答えていません。つまり検索で出てくるのは大きく振れた二つの結論で、実務で必要なのはそのどちらでもなく、「自分がいま抱えている作業のうち、どれが影響を受けるのか」という粒度の答えです。
結論=問いを「仕事」から「作業」に置き換える
結論から言うと、この問いは「マーケティングの仕事はなくなるか」ではなく、「自分が抱えている作業のうち、どれがAIに移り、どれが手元に残るか」と置き換えたほうが、答えが出ます。
理由は単純で、マーケティングという仕事は一つのかたまりではないからです。市場を調べる、資料を作る、数字を集計する、記事を書く、広告を出す、結果を見て次を決める。これらは性質がまったく違う作業の集まりで、AIの影響の受け方も同じではありません。かたまりのまま問えば、答えは「一部はそうで、一部はそうでない」という当たり前のところに落ち着き、そこから先に進めません。
作業の単位まで下ろすと、話が具体的になります。支援先で先月の仕事を書き出してもらうと、時間の多くが「調べる」「まとめる」「体裁を整える」に使われている、という結果になることがよくあります。その部分は、確かに進め方が変わります。一方で、どの顧客に何を届けるかを決めた時間や、社内で説明して合意を取った時間は、性質が違います。
なお、業務全体をどう仕分けるかという一般的な考え方はAI化する業務・しない業務の見分け方で扱っています。本記事では、マーケティングの作業に絞って線を引きます。
影響を受けやすい作業と、残りやすい仕事
実際に線を引くと、次のようになります。あくまで現時点での整理であり、どちらの側も固定ではありません。
| 区分 | 具体例 | いま起きていること |
|---|---|---|
| 影響を受けやすい作業 | 数値の定型集計、決まった形のレポート作成、記事や広告文の一次下書き、競合サイトの表面的な調査、問い合わせ内容の分類 | 手順が決まっていて、良し悪しの基準も共有されているため、下書きまでは任せやすい |
| 判断が要る中間の作業 | 調査結果からの仮説出し、複数案の比較、原稿の事実確認 | AIが案や候補を出し、人が選び、確かめる形に変わりつつある |
| 人の側に残りやすい仕事 | 何を狙うかの決定、出してよいかの最終判断とその責任、顧客と直接向き合う場面、自社の経験にもとづく独自の解釈 | 判断の根拠が社内や現場にあり、外から言葉で渡せる情報だけでは決められない |
表の一行目を見て、「自分の一日は、ほとんどここに入っている」と感じた方もいると思います。その感覚は、後の章で正面から扱います。
三行目に挙げたものが残りやすいのは、精神論ではなく理由があります。決定には責任がついて回り、その責任は人や法人にしか帰属しません。顧客との関係は、過去のやりとりの積み重ねの上に成り立っていて、その多くはどこにも文書化されていません。自社の解釈は、実際に試して失敗した経験から生まれます。
これらを文書にして渡すこと自体は、できないわけではありません。実際、社内の前提を書き出してAIに参照させる、という運用は成り立ちます。ただし、最終的に責任を引き受ける部分だけは、人や法人の側に残ります。
ただし、この線が今の位置で止まり続ける保証はありません。数年前は下書きも人の仕事でした。線は、たびたび引き直すものだと考えておくほうが安全です。
それでも正直に書いておきたいこと
ここまでの整理を読んで、「結局は大丈夫だという話か」と受け取られると、この記事の意味が半分なくなります。楽観だけを書くつもりはありません。
作業の内容によって、影響の受けやすさに差があること。ここは正直に書いておきます。決まった形の資料を作る、数字を転記して表にする、指示された条件で記事を書く。こうした定型的でデジタルな作業は、先ほどのILOの調査でも、いまの生成AIが技術的に処理しやすい側に分類されやすい種類のものです。
ただし、そこから「その作業を担当している役割がどうなるか」までは、この調査だけでは決まりません。技術的に処理しやすいことと、実際に役割や雇用がどう変わるかは、別の話だからです。実際にどうなるかは、会社がどう導入し、どう役割を組み直すかによって変わります。
起こり得るのは、一つの方向だけではありません。同じ人の担当が作業の側から判断の側へ移っていく場合もあれば、役割そのものが縮小する場合、外注の発注量が減る場合、配置転換になる場合もあります。職を失う可能性も、否定はできません。どちらに転ぶかは、本人の努力だけで決まるものではなく、会社側が学び直しの機会と新しい役割をどう用意するかにも左右されます。
そのうえで、個人の側でできることを挙げるなら、集計を回していた時間が空いたときに、その時間で何を見るかを決められるかどうか。ここが次の役割を分ける分岐点になりやすい、というのが実務で見ている範囲での実感です。
もう一つ、AIを入れた側で増える仕事もあります。出てきた内容が事実として正しいかを確かめる作業、指示の仕方を整える作業、任せてよい範囲を決めて社内に説明する作業。これらは以前は存在しなかったか、ごく小さかったものです。総量として仕事が減るとは限らない、というのが実際に運用してみた感触です。
「私の作業、なくなるんですか」と聞かれたとき
支援先で、担当者の方からこの質問を受けることがあります。経営者からの相談とは、聞かれている中身が違います。
そのとき私は、まず一緒に先月の作業を書き出してもらいます。抽象的な不安のままでは、対策の立てようがないからです。書き出すと、「これは任せてよさそう」「これは自分が決めている」の二つに、思ったより分けられることが多いという印象です。もちろん、どちらとも言い切れない混ざった作業も出てきます。
「減る作業」「残る仕事」「増える役割」の三つに分けて説明している
書き出した先で私が話しているのは、次のようなことです。今行っている作業の一部は減ります。その代わり、確認・判断・改善の役割が増えます。どこまで変わるかは一緒に決めます。この三つを、できるだけ具体的な言葉にして並べます。
減る可能性があるのは、転記、定型文の作成、形式の統一、一次整理、繰り返しの検索、候補の抽出といった作業です。毎週やっていた議事録の文字起こしは、その代表例だと思います。
残るのは、事実確認、例外の判断、顧客への配慮、公開や送信の承認、問題が起きたときの対応、会社としての最終決定です。議事録で言えば、AIが作ったものから重要な決定・担当者・期限を確認する仕事は残ります。問い合わせ対応でも、返信案を書く時間は減りますが、顧客の事情を踏まえて送ってよいかを判断する役割は残ります。
新しく増えるのは、AIへの依頼方法を改善する、誤りを記録する、正解例を整備する、業務ルールを更新する、自動化する範囲を見直す、AIでは処理できない案件を引き取る、といった役割です。
新しい役割を、抽象的な言葉で終わらせない
このとき気をつけているのは、増える役割を抽象的に説明しないことです。「より創造的な仕事へ移れます」とだけ言っても、現場は明日から何をすればよいのか分かりません。前向きな言葉で不安をふさいでいるだけになります。
そこで、いまの作業時間を確認したうえで、減った時間を何へ使うかまで一緒に決めます。たとえば毎週3時間かかっていた集計が30分で済むようになったなら、残りの時間で顧客への確認、改善提案、未対応案件の整理を行う、というところまで具体的に決めておきます。
もう一つ、AI導入を担当者の評価を下げる材料にしないことも大事だと考えています。効率化した結果を「同じ人数でもっと仕事を増やせる」とだけ扱えば、担当者は改善に協力しなくなります。AIの誤りを見つけた人、業務ルールを整えた人も、成果として評価される必要があります。
最後には、こう伝えています。なくしたいのはその人の仕事ではなく、その人でなくてもできる繰り返し作業です。判断と改善には、現場を知っている人が必要です。
もちろん、役割がまったく変わらないとは言いません。だからこそ導入の前に、減る作業・残す責任・新しく担う役割を明確にしておきます。不安を否定するのではなく、仕事の変化を具体化して、本人が新しい運用に参加できる状態を作る。私にできるのは、そこまでだと考えています。
職業の一覧で考えると、かえって分からなくなる
検索していると、「AIでなくなる職業」「AIに奪われない職業」といった一覧をよく見かけます。関心を持たれるのは自然なことですが、実務の判断材料としては使いにくい形式です。
理由は二つあります。一つは、同じ職業名でも会社によって中身がまったく違うことです。「マーケティング担当」という肩書きの人が、ある会社では予算配分を決めていて、別の会社では資料作成だけをしている、ということが普通に起きます。職業名で分類すると、その差が消えてしまいます。もう一つは、一覧を作る側の前提が見えないことです。何年後の話なのか、どこまで自動化された状態を指すのか。その前提が書かれていない一覧は、読んでも自分の状況に当てはめられません。
そこで本記事では、職業ではなく作業の単位で見ることを勧めています。作業なら自分で書き出せますし、会社ごとの違いも反映されます。一覧化する見方が間違っているというより、粒度が粗すぎて自分の判断には使えない、ということです。
自分の作業を線引きしてみる手順
抽象的な議論はここまでにして、実際に手を動かす手順を示します。所要時間は、最初の一回で1時間ほどが目安です。
- 先月の作業を、時間の大きい順に10個書き出す:記憶ではなくカレンダーや実際の成果物から拾うと、抜けが減ります。書き出し方の詳しい手順はAI業務棚卸しのやり方にまとめています。
- それぞれに「手順を人に説明できるか」を書き添える:説明できる作業は、AIにも渡せる可能性があります。説明できないものは、まだ自分の頭の中にあります。
- 「間違っていたときに、誰が責任を負うか」を書き添える:自分や会社が負うものは、最終判断が手元に残ります。
- 上の二つが「説明できる・責任は軽い」の作業から、一つだけ試す:複数を同時に変えると、何が効いたか分からなくなります。
- 空いた時間の使い道を、先に決めておく:ここを決めないまま効率化すると、空いた時間は別の作業で埋まります。
最後の項目は見落とされがちで、「速くなったが、やることが増えただけ」という状態になりやすいところです。時間を空けること自体は目的ではなく、判断や顧客対応に時間を移すための手段です。
工程をまたいでAIに任せる進め方、いわゆるAIエージェントを使う場合は、任せる範囲と止める場所を先に決めておく必要があります。その考え方はAIエージェントをマーケティングに使うで、Web集客の工程ごとに何が任せられるかはWebマーケティングのAI活用で扱っています。
会社として、この不安にどう向き合うか
ここまでは担当者の目線で書きました。最後に、経営者の立場から見た論点を一つだけ書いておきます。
支援先を見ている範囲では、担当者が「自分の作業がなくなるかもしれない」と感じている状態でAIの導入を進めると、うまくいかないことが多いという印象があります。自分の仕事を減らすかもしれない道具を積極的に使うのは、やはり難しいのだろうと感じています。表向きは進んでいても、実際には使われていない、ということが起きます。
避けるには順序を変えます。効率化して人を減らすという話ではなく、空いた時間で何をしてもらいたいかを先に示す。そのうえで、判断の部分は引き続き人が持つと明示する。支援先で見ている範囲では、この二つを最初に伝えておくかどうかで、進み方が変わります。もっとも、どう受け止められるかは組織の状況や雇用の方針にもよります。「AIをどう入れるか」の前に「役割をどう組み替えるか」を決める、という順序です。考え方の全体像はAI実践戦略とは何かで扱っています。
マーケティングとAIについてよくある質問
マーケティングはAIに取られるのでしょうか?
作業の一部は移りますが、仕事全体が移るという見方は、現時点では単純化しすぎです。定型的な集計、決まった形のレポート、一次下書きといった作業は任せやすい一方、何を狙うかの決定、出してよいかの判断とその責任、顧客と直接向き合う場面は人の側に残りやすい領域です。なお、定型的でデジタルな作業は技術的な影響を受けやすい側に分類されやすいものの、それだけで職や役割の結果が決まるわけではありません。担当が判断の側へ移る場合もあれば、役割の縮小、外注量の減少、配置転換といった形になる場合もあります。どうなるかは個人の学びだけでなく、会社が役割と学び直しの機会をどう用意するかにも左右されます。
マーケティング業務の大半がAIでなくなる、という話は本当ですか?
ただし、この種の見通しは根拠を確認できない形で流通していることが多く、業界全体で検証された統計ではありません。何を「業務」と数え、どの期間を見るかによって値は大きく変わります。本記事では、こうした具体的な数値を確定した見通しとしては扱っていません。比較的しっかりした調査としては、国際労働機関(ILO)が2025年に、多くの職業ではまるごと置き換わるより中身が変わる可能性が高い、という見方を示しています。数字の大小を追うより、自分が抱えている作業のうちどれが該当するのかを書き出して確かめるほうが、判断の役に立ちます。
AIの普及でなくなる職業は何ですか?
特定の職業名を挙げて断定することは、本記事ではしていません。同じ職業名でも会社によって作業の中身が大きく違い、職業単位の一覧では自分の状況に当てはめられないためです。実務的なのは職業単位ではなく作業単位で考えることで、「手順を人に説明できる作業か」「間違ったときに誰が責任を負うか」の二つで仕分けると、影響を受けやすい部分が具体的に見えてきます。
AIに奪われない7つの職業といった一覧は参考になりますか?
方向感をつかむ読み物としては参考になりますが、判断材料としては粒度が粗すぎます。何年後の話なのか、どこまで自動化された状態を指すのかという前提が示されていない一覧が多く、自社の状況に当てはめにくいためです。一覧を見て安心したり不安になったりするより、自分の先月の作業を10個書き出すほうが、得られる情報は多くなります。
マーケティングの将来性はどうなりますか?
誰に何をどう届けるかを考えるという仕事そのものが不要になる、という見通しは、現時点では見当たりません。ILOの調査でも、多くの職業は置き換わるより中身が変わる可能性が高いとされています。ただし、これは個々の会社で今の役割がそのまま残ることを保証するものではありません。担当範囲の縮小、外注量の減少、配置転換といった変化も現実に起こり得ます。そのうえで言えるのは、将来性を左右するのは職種の名前ではない、ということです。判断まで担える範囲を持てるかどうかに加えて、会社が業務をどう設計し直すか、その分野にどれだけ投資と需要があるか、人をどう再配置するか。こうした要素が重なって決まります。
いま何から始めればよいですか?
ツールを選ぶ前に、先月の自分の作業を10個書き出すところから始めてください。それぞれに「手順を人に説明できるか」と「間違ったときに誰が責任を負うか」を書き添えると、任せられる作業と手元に残す仕事が分かれます。そのうえで、説明できて責任の軽いものを一つだけ選んで試します。同時に複数を変えないことと、空いた時間の使い道を先に決めておくことが、実際に定着させるうえでの要点です。
関連記事と「AI戦略」に関するご案内
マーケティングの仕事がAIでなくなるかという問いは、「なくなる」「なくならない」のどちらかで答えるより、作業の単位まで下ろして線を引くほうが、実務の判断に使えます。技術的に処理しやすい側に分類されやすいのは、定型的でデジタルな作業です。一方、責任・顧客との関係・独自の解釈を伴う仕事は、そのままでは渡しにくい性質を持っています。ただし、これは作業の性質の話であって、そこから役割や雇用の行き先まで決まるわけではありません。会社側が役割をどう組み替え、学び直しの機会をどう用意するかによって、結果は変わります。
AIをマーケティングの工程にどう組み込むかの全体像はAIマーケティングとは、業務の仕分け方はAI化する業務・しない業務の見分け方、書き出しの具体的な手順はAI業務棚卸しのやり方で、それぞれ整理しています。
役割の組み替えを個別の作業で終わらせず、経営課題として考えたい場合は、中小企業社長のためのAI戦略活用完全ガイドで全体像を確認できます。
確認日:2026年8月5日(マーケティング業務とAIに関する各社の公開情報を参照)
