今回は「社労士試験の救済制度」について説明します。
救済措置とは、特定の科目について行われる得点調整のことです。合格率が極端に低くなる事態を避ける目的で、合格基準点を本来の基準よりも下げることです。
この救済措置、ボーダーラインすれすれの受験生にとっては「最後の拠り所」みたいな存在ですが、一方で「仕組みが分かりにくい」という声も多く聞かれます。
この記事では、そんな救済措置について分かりやすくご説明します。
気になる方は、ぜひチェックしてみてくださいね。
目次
社会保険労務士(社労士)の試験の救済制度とは何?
社会保険労務士(社労士)の資格試験は、下記のように合格基準が決められています。
- 選択式試験:総得点で7割程度以上(原則として、各科目3点以上)
- 択一式試験:総得点で7割程度以上(原則として、各科目4点以上)
選択式試験と択一式試験の両方で総得点をクリアするだけではなく、全ての科目を基準点以上にしないといけません。
1つでも苦手な科目があると不合格になるため、社会保険労務士(社労士)の合格率はかなり低くなっています。
※社会保険労務士(社労士)の合格率のデータ、合格率が低い理由はこちらのページでまとめました。
しかし、足切りにかかって社会保険労務士(社労士)の試験に落ちたと思っていても、合格できたというケースはあります。
それは社会保険労務士(社労士)の試験に救済措置が施されているからです。
救済措置とは、社労士試験の合格率を一定のラインでコントロールしたり難易度調整をしたりするため、年度によって各科目の基準点を下げるための仕組みです。
その年の平均点が例年よりも低い科目がある場合・難易度が高い場合などは、救済によって基準点(足切り)が低くなることがあります。
少し細かいですが、救済措置の正確な基準は以下のとおりです。
科目最低点の補正(救済措置)
各科目の合格基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。
ⅰ) 引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合
ⅱ) 引き下げ補正した合格基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合
例えば、通常であれば選択式試験は各科目3点の基準点が設定されていますが、救済措置が取られた科目は2点以下になります。
難易度の高い社会保険労務士(社労士)の試験は1点や2点で合否が変わることもありますので、救済の有無は受験生にとって極めて重要だと言えるのではないでしょうか。
社会保険労務士(社労士)の試験で救済措置が取られる理由
社会保険労務士(社労士)の試験が実施された後は、受験生の間で救済に関する話題で持ち切りになります。
前述のとおり、社会保険労務士(社労士)の試験で救済措置が取られるのは、合格率のコントロールや試験の平等性が理由です。
合格基準点を本来の基準よりも下げて合格率が極端に低くなる事態を避ける目的で、救済の科目を設けて得点調整が行われます。
以下では、社会保険労務士(社労士)の試験科目ごとの出題数や配点をまとめてみました。
<選択式試験>
- 労働基準法:1問/5点
- 労働安全衛生法:(労働基準法の設問に含まれる)
- 労働者災害補償保険法:1問/5点
- 雇用保険法:1問/5点
- 労働保険の徴収等に関する法律:出題なし
- 労務管理その他の労働に関する一般常識:1問/5点
- 社会保険に関する一般常識:1問/5点
- 健康保険法:1問/5点
- 厚生年金保険法:1問/5点
- 国民年金法:1問/5点
合計:8問/40点
<択一式試験>
- 労働基準法:7問/7点(安全衛生法と合わせて10点満点)
- 労働安全衛生法:3問/3点(労働基準法と合わせて10点満点)
- 労働者災害補償保険法:7問/7点(徴収法と合わせて10点満点)
- 雇用保険法:7問/7点(徴収法と合わせて10点満点)
- 労働保険の徴収等に関する法律:6問/6点(労災法、雇用保険法と合わせて3点ずつ出題される)
- 労務管理その他の労働に関する一般常識:5問/5点(社会保険の一般常識と合わせて10点満点)
- 社会保険に関する一般常識:5問/5点(労働に関する一般常識と合わせて10点満点)
- 健康保険法:10問/10点
- 厚生年金保険法:10問/10点
- 国民年金法:10問/10点
合計:70問/70点
救済措置が取られた科目は、選択式試験は3点⇒2点または1点、択一式試験は4点⇒3点と基準点(足切り)が下げられます。後ほど紹介しますが、選択式では基準点が1点になったこともあります。
一応は例外的な扱いとされていますが、社会保険労務士(社労士)の試験では毎年救済制度が見受けられるのです。
社会保険労務士(社労士)の試験で救済制度がある理由
社会保険労務士(社労士)の試験問題は、全国社労士連合会の社労士試験センターで資格取得者を含む有職者が作成しています。
上記の基準に則って前例にない難問が出題された場合は、試験の作成者にも問題があったとして、公平性を維持するために救済措置が取られるのです。
前述のとおり、選択式試験と択一式試験で救済が起こるかどうかの基準は決まっていますが、実際のところ、試験政策委員の判断に委ねられるケースが全くないわけではありません。
あまりにも試験の平均点が低い場合は、基準を満たしていなくても救済措置が取られることもあります。
社会保険労務士(社労士)の試験で過去の救済科目はどれ?
社会保険労務士(社労士)の試験を受ける受験者にとって、どの科目で救済措置が取られやすいのか気になるところですよね。
過去の社会保険労務士(社労士)の試験データを見てみると、択一式試験よりも選択式試験の方が救済措置が取られやすい傾向があります。
以下では、社会保険労務士(社労士)の試験で基準点が下げられた科目を年度別でまとめてみました。
<択一式試験>
- 平成26年:「労働及び社会保険に関する一般常識(基準点は3点)」
- 平成28年:「労働及び社会保険に関する一般常識(基準点は3点)」「厚生年金保険法(基準点は3点)」「国民年金法(基準点は3点)」
- 平成29年:「厚生年金保険法(基準点は3点)」
- ※平成30年~令和3年は無し
<選択式試験>
- 平成20年:「健康保険法(基準点は1点)」「厚生年金保険法/国民年金法(基準点は2点)」
- 平成21年:「労働基準法/労働者災害補償保険法(基準点は2点)」「労働安全衛生法/厚生年金保険法(基準点は2点)」
- 平成22年:「国民年金法(基準点は1点)」「健康保険法/厚生年金保険法(基準点は2点)」「社会保険に関する一般常識(基準点は2点)」
- 平成23年:「労働基準法/労働安全衛生法(基準点は2点)」「労働者災害補償保険法(基準点は2点)」「社会保険に関する一般常識(基準点は2点)」「厚生年金保険法/国民年金法(基準点は2点)」
- 平成24年:「厚生年金保険法(基準点は2点)」
- 平成25年:「社会保険に関する一般常識(基準点は1点)」「労働者災害補償保険法/雇用保険法(基準点は2点)」「健康保険法(基準点は2点)」
- 平成26年:「雇用保険法/健康保険法(基準点は2点)」
- 平成27年:「労務管理その他労働に関する一般常識(基準点は2点)」「社会保険に関する一般常識(基準点は2点)」「健康保険法/厚生年金保険法(基準点は2点)」
- 平成28年:「労務管理その他の労働に関する一般常識(基準点は2点)」「健康保険法(基準点は2点)」
- 平成29年:「雇用保険法/健康保険法(基準点は2点)」
- 平成30年:「社会保険に関する一般常識(基準点は2点)」「国民年金法(基準点は2点)」
- 令和元年:「社会保険に関する一般常識(基準点は2点)」
- 令和2年:「社会保険に関する一般常識(基準点は2点)」「労務管理その他の労働に関する一般常識(基準点は2点)」「健康保険法(基準点は2点)」
- 令和3年:「労務管理その他の労働に関する一般常識(基準点は1点)」「国民年金法(基準点は2点)」
- 令和4年:救済無し
選択式試験の中でも、年金関連や社会保険に関する一般常識は救済措置が取られやすい科目です。
極端に難解な問題や実務に傾倒しすぎた問題で正解率が低いと、救済によって合格ラインが引き下げられます。
社会保険労務士(社労士)の試験で救済科目はあてにして良いの?
「年金関連の科目や一般常識の科目は救済措置が取られやすいから、あまり勉強しなくても良いのでは?」と考えている方はいませんか?
基準点が下げられている科目に費やす勉強時間を他の科目に割り振れば、効率良く社会保険労務士(社労士)の試験合格を目指せます。
しかし、社会保険労務士(社労士)の試験で救済科目をあてにするのはNGです。
毎年様々なブログで社会保険労務士(社労士)の試験の救済科目が予想されていますが、どの科目の基準点が引き下げられるのかは結果が出ないとわかりません。
難易度の高い問題が出題されたとしても、正答率が下がらなければ救済措置の対象にならないのです。
そのため、社会保険労務士(社労士)の試験合格を目指す方は、なるべく苦手の科目を作らないように満遍なく学習しましょう。
試験に合格した後に社会保険労務士(社労士)の資格を活かして働く場合、どの科目の知識も満遍なく有している必要があります。
社会保険労務士(社労士)の試験合格がゴールではありませんので、各科目をバランス良く学習するのが大事ですよ。
まとめ
社会保険労務士(社労士)の試験の救済措置についておわかり頂けましたか?
社会保険労務士(社労士)の試験が難しいのは、全ての科目で満たすべき得点を超えている必要性があるからです。
しかし、合格点に満たなくても救済措置が取られることがありますので、合否の行方は最後までわかりません。
とは言え、救済措置に頼らなくても合格ラインを超えられるように、社会保険労務士(社労士)の試験勉強にしっかりと取り組んでみてください。
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