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特定社会保険労務士(特定社労士)になるメリットは?
今回は、特定社労士に関する記事です。
社会保険労務士(社労士)の試験に合格し、難関の資格を取得できたことでホっと一息ついている方はいませんか?
国が認めている国家資格ですので、社会保険労務士(社労士)を持っていれば日々の業務に役立てたり転職が有利になったりします。
さらなるステップアップを目指すために、特定社会保険労務士(特定社労士)になるのも選択肢の一つですね。
特定社会保険労務士(特定社労士)は一般的な社会保険労務士(社労士)とは違い、各種ハラスメントなどの労使間トラブルに関する裁判外のあっせん業務ができます。
職場で起こりやすいトラブルを解決し、万が一、裁判になっても企業ブランドの棄損を始めとする、様々な問題(リスク)を回避する専門家です。
社会保険労務士法が改正されて、平成19年(2007年)の4月1日より、特定社会保険労務士制度が開始されました。
この記事では、社会保険労務士(社労士)の上級職とも言える特定社会保険労務士(特定社労士)になるメリットを解説していきます。
裁判外紛争解決手続制度(ADR)に基づく代理業務ができる
特定社会保険労務士(特定社労士)になる一番のメリットは、裁判外紛争解決手続制度(ADR)に基づいて、代理業務ができる点です。
通常の資格の社会保険労務士(社労士)を持っているよりも、業務内容の幅が広がるとイメージすればわかりやすいのではないでしょうか。
社会保険労務士(社労士)ができる業務内容は、下記の3種類に大きく分類できます。
- 労働社会保険諸法令に基づく申請書類の作成や提出に関する手続きの代行(1号業務)
- 「就業規則」「労働者名簿」「賃金台帳」などの帳簿書類の作成(2号業務)
- 会社の人事や労務の相談や指導に応じるコンサルティング業務(3号業務)
1号業務と2号業務は社会保険労務士(社労士)にしかできない独占業務ですので、税理士や公認会計士と同じように資格を取得する価値は大いにあります。
特定社会保険労務士(特定社労士)は上記の3つの業務に加えて、労働関係トラブルについての話し合いによる解決法である裁判外紛争解決手続制度(ADR)が可能です。
労働関係トラブルと一口に言っても、「セクハラ」「パワハラ」「いじめ」「不当解雇」「賃金不払い」「年次有給休暇の未取得」とたくさんあります。
これらの難しい問題の解決を裁判で争うのではなく、和解による解決を目指して話し合いを行うに当たり、裁判外紛争解決手続制度(ADR)に基づく代理業務ができる特定社会保険労務士(特定社労士)が欠かせません。
裁判外紛争解決手続制度(ADR)に基づく代理業務の具体的な内容は以下のとおりです。
- 都道府県労働局および都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせんの手続等の代理
- 都道府県労働局における障害者雇用促進法の手続等の代理
- 都道府県労働局における労働施策総合推進法の手続等の代理
- 都道府県労働局における男女雇用機会均等法の調停の手続等の代理
- 都道府県労働局における労働者派遣法の手続等の代理
- 都道府県労働局における育児介護休業法の調停の手続等の代理
- 都道府県労働局におけるパート労働法の調停の手続等の代理
- 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続における当事者の代理
今までの社会保険労務士(社労士)の業務は、法人との顧問契約や顧客企業内の労務管理など、労使で言えば「使用者側(会社側)」に立った業務が主流でした。
一方で上級職の特定社会保険労務士(特定社労士)は、法律業務的側面を押し出して労働者サイドに立った実務を行えますよ。
企業や労働者の立場に立った裁判外紛争解決手続きのメリット
裁判外紛争解決手続きは、裁判の訴訟によらない紛争解決方法を指します。
企業や労働者の立場に立ってみて、裁判外紛争解決手続きを特定社会保険労務士(特定社労士)に依頼するメリットを見ていきましょう。
- 紛争当事者間の調整や話し合いの促進は非公開で行われるため、企業イメージやプライバシーの面で安心
- 裁判での訴訟のように「勝った」「負けた」という将来に遺恨を残さない円満解決を目指せる
- 裁判よりも短い期間で問題が解決する(通常は1回の交渉で終了することが多い)
- 紛争当事者間であっせん案に合意すると、民法上の和解契約の効力を持つ
- 事業主は労働者があっせんの申請を求めても、解雇や減給などの不利益な取り扱いをしてはならない(労働者側のメリット)
裁判所での解決(民事訴訟)と裁判外紛争解決手続きでは大きな違いがあります。
事業主と労働者の両者にメリットがありますので、この業務ができる特定社会保険労務士(特定社労士)は重宝されるわけです。
顧客やクライアントから信頼を獲得できる
一般的な社会保険労務士(社労士)よりも、顧客やクライアントからの信頼を獲得できるのは特定社会保険労務士(特定社労士)になるメリットです。
通常の国家資格でも十分にアピールポイントになりますが、企業や会社内で起こる労働関係トラブルの解決に対応できる特定社会保険労務士(特定社労士)は更に重宝されます。
以下では、企業が裁判外紛争解決手続制度(ADR)に基づく代理業務ができる特定社会保険労務士(特定社労士)を求めている理由をいくつか挙げてみました。
- パワハラや賃金未払いを中心に労働関係トラブルが後を絶たない
- 裁判で争うのではなく和解契約の締結の代理を依頼できる
- 時間や費用のかかる裁判で争う必要がなくなる
企業にとってもトラブルの当事者にとっても、特定社会保険労務士(特定社労士)は頼りになる存在です。
開業社労士は特に自分で積極的に仕事を確保すべきですので、信頼感を高めるために特定社会保険労務士(特定社労士)を目指してみてはいかがでしょうか。
特定社会保険労務士(特定社労士)になる方法をまとめてみた
特定社会保険労務士(特定社労士)になるにはどうすれば良いのか、疑問を抱えている方はいませんか?
一般的な社会保険労務士(社労士)の資格試験と比較してみると、かなりハードルは低くなっています。
更なるステップアップを目指す方のために、特定社会保険労務士(特定社労士)になる方法を詳しくまとめてみました。
特定社会保険労務士(特定社労士)の受験資格
まず最初に、特定社会保険労務士(特定社労士)になるには次の受験資格をクリアする必要があります。
- 1年に1回行われる社会保険労務士(社労士)の試験に合格している
- 一定の費用を支払って全国社会保険労務士会連合会に登録している
- 登録番号の入った顔写真付の社会保険労務士証が交付されている
ただ試験に合格するだけではなく、全国社会保険労務士会連合会への登録で社会保険労務士証を交付されて初めて特定社会保険労務士(特定社労士)の受験資格が発生するわけです。
特定社会保険労務士(特定社労士)の特別研修を受ける
名簿に登録されている社労士は、厚生労働大臣が定める特定社会保険労務士(特定社労士)の特別研修を受けられます。
特定社会保険労務士(特定社労士)になるには、計63.5時間の特別研修を修了しないといけません。
特定社会保険労務士(特定社労士)の特別研修は、「中央発信講義」「グループ研修」「ゼミナール」の3つで、それぞれの内容を見ていきましょう。
30.5時間の中央発信講義
30.5時間の中央発信講義では、個別労働関係法の制度や理論を理解し、個別労働関係紛争解決手続代理人としての倫理を確立するための授業が行われます。
講義の内容は全国同一のものとするため、DVDを視聴する形式で実施されるのが特徴ですね。
以下では、特定社会保険労務士(特定社労士)の講義研修のカリキュラムをまとめてみました。
- 特定社会保険労務士の果たす役割と職責
- 専門家の責任と倫理
- 憲法(基本的人権に係るもの)
- 民法(契約法、不法行為法の基本原則に係るもの)
- 労使関係法
- 労働契約・労働条件
- 個別労働関係法制に関する専門知識
- 個別労働関係紛争解決制度
特定社会保険労務士(特定社労士)の中央発信講義は、例年9月下旬~11月下旬に実施されます。
申し込み期間は6月中旬~7月上旬ですので、特定社会保険労務士(特定社労士)を目指す方は忘れないようにしてください。
18時間のグループ研修
特定社会保険労務士(特定社労士)のDVD講義を受けた後は、18時間のグループ研修を行います。
受講者が10人程度のグループを作り、課題として出題された労働争議について討論や議論を尽くし、あっせん申請書と答弁書を作成する流れです。
このグループ研修では、特定社会保険労務士(特定社労士)の資格を持つ方がリーダーを務めてくれます。
15時間のゼミナール
最後の研修内容は15時間のゼミナールで、個別労働関係紛争の解決の代理業務を実施するために、実務的なスキルを育成することが目的です。
ゼミナールではケース・スタディーを中心に、下記の内容についてロールプレイの手法が取り入れられています。
- 申請書及び答弁書の検討
- 個別労働関係紛争の争点整理
- 和解交渉の技術及び代理人の権限と倫理
50人程度のクラスを作り、講師による講評や双方向の講義を行っていきます。
特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)に合格する
特定社会保険労務士(特定社労士)の特別研修の全日程に出席し、全てのカリキュラムを受講して課題の提出を行うと、試験委員が定めた特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)の受験が可能です。
特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)に合格すると、晴れて特定社会保険労務士(特定社労士)になることができます。
基本的に試験はゼミナールの最終日に実施されることが多く、全て記述式の問題で所要時間は2時間です。
書店では紛争解決手続代理業務試験の過去問が販売されていますので、特別研修を受講している辺りから勉強を始めましょう。
特定社会保険労務士(特定社労士)の難易度は高い?試験の合格率は?
特別研修や試験があると聞き、「特定社会保険労務士(特定社労士)になるには難易度が高いのでは?」とイメージしている方はいませんか?
しかし、通常の社会保険労務士(社労士)の試験と比較してみると、特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)は簡単です。
ここでは、全国社労士連合会の社労士試験委員会が作成する特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)の合格率のデータを見ていきます。
<試験年度 受験者数 合格者数 合格率>
第1回(平成18年度) 3,117人 2,368人 75.97%
第2回(平成18年度) 4,289人 2,802人 65.33%
第3回(平成19年度) 2,629人 1,912人 72.73%
第4回(平成20年度) 1,603人 1,219人 76.04%
第5回(平成21年度) 1,644人 1,038人 63.14%
第6回(平成22年度) 1,628人 880人 54.05%
第7回(平成23年度) 1,675人 1,145人 68.36%
第8回(平成24年度) 1,428人 861人 60.3%
第9回(平成25年度) 1,270人 837人 65.9%
第10回(平成26年度) 1,139人 710人 62.30%
第11回(平成27年度) 1,175人 656人 55.8%
第12回(平成28年度) 1,019人 647人 63.5%
第13回(平成29年度) 890人 510人 57.3%
第14回(平成30年度) 911人 567人 62.2%
合格率は年度でバラつきがありますが、合格率が毎年6%前後の社会保険労務士(社労士)の試験と比べてみるとかなり高い数値ですね。
半分以上の方が特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)に合格し、特定社会保険労務士(特定社労士)になっています。
ただし、特定社会保険労務士(特定社労士)の特別研修の講義やゼミナールは、皆さんが想像している以上に大変です。
寝る暇もないほど過酷で難易度の高い内容ですので、特定社会保険労務士(特定社労士)を目指す方は覚悟しておいてください。
通信講座で特定社労士試験を対策するのも選択肢の一つ!
特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)に不合格になると、また来年に受験しないといけません。
合格率は高くても落ちている社会保険労務士(社労士)はいますので、通信講座で試験対策を行うのも選択肢の一つです。
例えば、資格の学校TACでは、次の特定社労士試験の対策コースが用意されています。
- 第1回講義(講義形式):「法学の基礎知識」「民法の基礎知識」「重要判例の知識」「試験における個別論点」
- 第2回講義(演習形式):「個別論点のポイント」「自己都合退職」「倫理に関する事例」
試験の合格に近づくのは間違いありませんので、「絶対に特定社会保険労務士(特定社労士)になりたい」「試験で問われる重要判例を押さえたい」「特別研修を効果的に受けたい」という方は通信講座を活用してみてください。
特定社会保険労務士(特定社労士)の業務の報酬はどのくらい?
特定社労士になるためには、研修を受講する必要がありますし、さらに試験で合格をしなければならないため、そのための勉強にも時間を取られます。
それだけ苦労するのですから、当然、報酬額は気になるでしょう。
以下、裁判外紛争解決手続制度(ADR)業務の報酬金額(目安)をご紹介します。
- 個別紛争の解決における代理業務の着手金:30分で3,240円(10分を超えるごとに1,050円の加算)
- 書類作成、および交渉戦術などの立案の報酬:16,200円
- 裁判外紛争解決手続代理料金:16,200円
- 個別労働紛争解決手続代理業務の成功報酬:労働者の要求金額との差額の1%+消費税
一般の社労士業務と比較し、そんなに高額な報酬というわけではありませんが、専門性を高めれば仕事の幅が広がりますし、なによりやりがいも増えるのではないでしょうか。
まとめ
社労士試験に合格し、資格登録および会保険労務士証を保持している方であれば、特定社労士になる道が開けています。
裁判外紛争解決手続制度(ADR)に関連する業務に関心のある方は、ぜひ挑戦してみてください。