【生成AIパスポート合格講座 第4回】情報リテラシーとAI社会原則

生成AIパスポート合格講座「情報リテラシーとAI社会原則(第4回)」の内容を記事にまとめました。動画で見たい方は下の動画を、要点だけ読みたい方は本文をご覧ください。また、記事末に確認問題(解答・解説つき)があります。

本講座は「生成AIパスポート試験」(一般社団法人 生成AI活用普及協会:GUGA)の合格を目指す全6回シリーズです。本文・図解・確認問題は当講座オリジナルです。

目次

この章で、あなたが「判断できるようになる」こと

第1〜3章では、生成AIの「技術」と「できること」を学んできました。ここで、視点が大きく変わります。

第4章のテーマは、「生成AIを、社会の中で安全に・正しく使うためのルールと責任」です。

技術がどれだけすごくても、使い方を誤れば、情報漏洩・詐欺・著作権侵害・人権侵害といったトラブルを引き起こします。だからこそ、生成AIを使う私たちには、セキュリティ・個人情報・法律・倫理についての基礎知識が求められます。

正直にお伝えすると、第4章は本講座で最も内容が多く、覚えるべき用語も多い章です。法律やセキュリティの専門用語が次々に出てきます。でも、安心してください。この章は試験で最も配点を取りやすい章でもあります。多くが「言葉の意味を正しく知っているか」を問う問題だからです。ストーリーと具体例で押さえれば、確実に得点できます。

学習のコツ この章は、用語を「丸暗記」しようとすると一番つらい章です。おすすめは、「これは何から身を守るための話か」「誰の何を守る話か」を意識して読むこと。すべては「安全に使う」「他人の権利を侵さない」という2つの目的に向かっています。

この章を読み終えると、あなたは次のことができるようになります。

  • フィッシングなどの代表的なネット詐欺を見分け、対策を説明できる
  • 個人情報・要配慮個人情報を正しく区別できる
  • AIで作ったものが、誰の権利を侵すおそれがあるか判断できる
  • AI社会原則とAI事業者ガイドラインの全体像を語れる
  • 2025年に施行されたAI新法が「どんな法律か」を説明できる

では、すべての土台となる「インターネットリテラシー」から始めましょう。

4-1 インターネットリテラシー――安全に使うための基礎体力

インターネットリテラシーとは

インターネットリテラシーとは、インターネットを正しく理解し、適切かつ安全に使いこなす能力のことです。「リテラシー」は、もともと「読み書きの能力」を意味する言葉で、転じて「ある分野を使いこなす力」を指します。

生成AIもインターネットを通じて使うものですから、その土台として、まずネットを安全に使う力が欠かせません。インターネットリテラシーは、いくつかの要素から成り立っています。

  • テクノロジーの理解:インターネットやAIなどの技術が、どういう仕組みで動いているかを大まかに理解する力。仕組みが分かれば、リスクにも気づけます。
  • 情報リテラシー:大量の情報の中から、正しい情報を見分け、適切に活用する力。ネット上の情報を鵜呑みにせず、信頼できるか判断する力です。生成AIのハルシネーション(第2章)対策にも直結します。
  • セキュリティとプライバシー:自分や他人の情報を、脅威から守る意識と行動。次の4-2で詳しく扱います。
  • デジタル市民権(デジタル・シチズンシップ):デジタル社会の一員として、責任を持って、他者を尊重しながら振る舞うという考え方。ネット上でのマナーや、加害者にならない意識も含みます。

攻略MEMO インターネットリテラシーは、「①技術を理解し ②正しい情報を見分け ③安全を守り ④責任ある市民として振る舞う」力の総称、と整理する。情報リテラシー=正しい情報を見分ける力デジタル市民権=責任ある一員としての振る舞い、は意味を取り違えないように。

4-2 セキュリティとプライバシー――ネットに潜むリスクを知る

インターネットには、私たちをだまし、情報や金銭を奪おうとする攻撃が潜んでいます。生成AIを業務で使う場面でも、これらの知識は欠かせません。代表的な脅威を、種類ごとに押さえましょう。

フィッシング詐欺とその仲間(スミッシング・ヴィッシング)

フィッシング詐欺とは、実在する企業や銀行になりすました偽のメールやWebサイトで、利用者をだまし、ID・パスワード・カード情報などを盗み取る手口です。「アカウントが停止されました」などと不安をあおり、偽サイトへ誘導するのが典型です。

フィッシングには、使う手段によって呼び名が分かれます。

  • スミッシングSMS(ショートメッセージ)を使ったフィッシング。「SMS+フィッシング」の造語です。宅配業者を装った不在通知などが代表例です。
  • ヴィッシング音声通話(電話)を使ったフィッシング。「ボイス+フィッシング」の造語です。銀行員や役所職員を装って電話で情報を聞き出します。

ここが分かれ目 フィッシングの仲間は「何を使うか」で区別する。 ・メール・Webサイト → フィッシング ・SMS → スミッシング ・電話(音声)→ ヴィッシング 名前の由来(SMS=スミッシング、Voice=ヴィッシング)で覚えると確実。

スピアフィッシング――狙い撃ちの攻撃

スピアフィッシングは、不特定多数にばらまくのではなく、特定の個人や組織を狙い撃ちにするフィッシングです。「スピア(槍)」で一点を突くイメージです。事前に相手の情報を調べ上げ、いかにも本物らしいメールを送ってくるため、見破るのが難しく、企業の標的型攻撃などで使われます。

マルウェアとランサムウェア、その対策

マルウェアとは、コンピュータに害を与える悪意のあるソフトウェアの総称です(「悪意のある=malicious」+「ソフトウェア」の造語)。ウイルスもこの一種です。

中でも近年深刻なのがランサムウェアです。これは、感染するとデータを勝手に暗号化して使えなくし、「元に戻してほしければ身代金(ランサム)を払え」と要求するマルウェアです。企業や病院が業務停止に追い込まれる被害が世界中で起きています。

これらのマルウェアから身を守る基本ツールが、アンチウイルスソフトウェアです。マルウェアを検知・除去し、感染を防ぐソフトで、常に最新の状態に保つことが大切です。

ソーシャルエンジニアリング攻撃――人の心をだます

ここまでは技術的な攻撃でしたが、ソーシャルエンジニアリング攻撃は毛色が違います。これは、技術ではなく、人間の心理の隙や油断につけこんで、情報を盗み出す手口の総称です。

たとえば、システムの管理者になりすまして電話で「パスワードを確認したい」と聞き出す、肩越しに画面をのぞき見る(ショルダーハッキング)、といった具合に、人をだますことそのものが攻撃手段です。代表的なパターンを押さえましょう。

  • プレテキスト:もっともらしい口実(作り話)をでっち上げて、相手を信用させ、情報を聞き出す手口。「監査のために確認が必要で」などと、嘘の理由で迫ります。
  • ベイト攻撃:「ベイト(餌)」で相手を誘う手口。たとえば、ウイルスを仕込んだUSBメモリを「拾った人が使うように」わざと置いておく、無料プレゼントを装って悪意あるファイルを開かせる、といった手口です。
  • ブラックメール:相手の弱みや秘密をネタに脅迫し、金銭や情報を要求する手口です。

攻略MEMO ソーシャルエンジニアリングは「技術ではなく人をだます」攻撃、という点が核心。 ・プレテキスト=嘘の口実で聞き出す ・ベイト攻撃=餌で誘う ・ブラックメール=弱みで脅す 「最新のセキュリティソフトを入れていても防げない」のがこの攻撃の怖さ。

身近に潜むその他の罠

日常のちょっとした場面にも、罠は潜んでいます。

  • 悪意のあるQRコード:読み取ると、ウイルス配布サイトや偽サイトに誘導されるQRコード。貼り替えられたQRコードを読み取って被害に遭う例があります。
  • Wi-Fiに潜む罠:公衆の無料Wi-Fiの中には、通信内容を盗み見るために攻撃者が用意した偽のアクセスポイントがあります。暗号化されていないWi-Fiでの重要情報のやり取りは危険です。
  • アップロードサービスに潜む詐欺:ファイル共有サービスなどを装い、マルウェアをダウンロードさせたり、情報を抜き取ったりする手口です。
  • 不適切なコンテンツへのWebアクセス:違法・有害なサイトへのアクセスは、ウイルス感染や詐欺被害、トラブルの入口になります。

生成AIの技術的発展に潜む脅威

そして、生成AIの進化そのものが、新たな脅威も生んでいます。

たとえば、生成AIを使えば、だまされやすい巧妙なフィッシングメールを大量に、自然な文章で作れてしまいます。第3章で学んだディープフェイクで、本人そっくりの声で詐欺の電話をかけることもできます。攻撃の「質」と「量」が、生成AIによって一段と高まっているのです。便利な技術は、悪用されると強力な凶器にもなる――この両面を、使う側として常に意識する必要があります。

4-3 個人情報保護の観点――「個人情報」を正しく扱う

生成AIに、うっかり顧客の名前や住所を入力していませんか。生成AIの利用では、個人情報の取り扱いが大きな論点になります。ここでは、その土台となる法律と用語を押さえます。

個人情報保護法と関連する登場人物

個人情報保護法は、個人情報を適切に取り扱うためのルールを定めた日本の法律です。社会の変化に合わせて何度も改正されており、現在は改正個人情報保護法にもとづいて運用されています。

関連する登場人物も押さえましょう。

  • 個人情報保護委員会:個人情報の保護に関する監督機関(国の組織)。ガイドラインを示したり、問題があれば事業者を指導したりします(英語の略称PPCで呼ばれることもあります)。
  • 個人情報取扱事業者個人情報を事業に使っている事業者のこと。法律上の義務を負う主体で、いまやほとんどの企業がこれに当たります。

個人情報の定義と個人識別符号

そもそも「個人情報」とは何でしょうか。法律上は、生存する個人に関する情報であって、特定の個人を識別できるものを指します。氏名や、顔写真、ほかの情報と組み合わせて個人を特定できるものも含まれます。

特に重要なのが個人識別符号です。これは、それ単体で特定の個人を識別できる、法律で定められた符号のことです。たとえば、指紋・顔・声紋などの身体的特徴をデータ化したものや、マイナンバー、パスポート番号、運転免許証番号などが該当します。これらが含まれる情報は、個人情報として扱われます。

要配慮個人情報と機微(センシティブ)情報

個人情報の中でも、特に慎重な取り扱いが必要なものがあります。それが要配慮個人情報です。

要配慮個人情報とは、本人への不当な差別や偏見につながりかねない、デリケートな個人情報のことです。具体的には、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪被害の事実などが該当します。これらは、原則として本人の同意なく取得してはいけないなど、通常の個人情報より厳しいルールが課されます。

こうしたデリケートな情報は、一般に機微(センシティブ)情報とも呼ばれます。「センシティブ=慎重な扱いが必要」という意味です。

攻略MEMO 「要配慮個人情報」の具体例(人種・信条・病歴・犯罪歴など)は試験頻出。 ・ポイント:差別や偏見につながりうる情報なので、取得に原則本人同意が必要。 ・単なる氏名・住所は要配慮ではない。「センシティブかどうか」で見分ける。

匿名加工情報とマスキング

個人情報を、本人のプライバシーを守りながら活用したい場面もあります。そのための工夫が匿名加工情報です。

匿名加工情報とは、特定の個人を識別できないように加工し、かつ元に戻せないようにした情報のことです。たとえば、データ分析のために、誰のデータか分からない形に加工して使う、といった活用ができます。適切に匿名加工すれば、一定のルールのもとで本人同意なく利活用できる道が開けます。

その加工の代表的な手法がマスキングです。マスキングとは、情報の一部を隠す(塗りつぶす)ことです。たとえば、氏名や住所の一部を「●●」で伏せる、といった処理です。

生成AI活用における個人情報の取り扱い

ここまでの知識を、生成AIの利用に応用しましょう。最も大切な注意点はこれです。

生成AIに、安易に個人情報を入力してはいけない。

なぜなら、入力した情報が、サービスによってはAIの学習に使われたり、外部に保存されたりする可能性があるからです。顧客名簿や、要配慮個人情報をうっかり入力すれば、情報漏洩や法令違反につながりかねません。

実務でひとこと 生成AIに個人情報を入力する前に、必ず確認すべきことが2つあります。①そのサービスが入力内容を学習に使わない設定になっているか。②そもそも入力する必要があるか(マスキングで代替できないか)。社内ルールとして「個人情報・機密情報は原則入力禁止」と定める企業が増えています。

4-4 制作物に関わる権利――AIで「作ったもの」は誰のもの?

生成AIで文章・画像・音楽を作れるようになった今、「それは誰の権利を侵していないか」「作ったものは誰のものか」という問題が、避けて通れなくなりました。ここでは、関連する権利を整理します。

知的財産権という大きな傘

知的財産権とは、人間が知的活動で生み出したもの(アイデアや創作物)を保護する権利の総称です。大きな傘のような言葉で、その下にいくつかの権利が含まれます。代表的な4つを押さえましょう。

  • 著作権:小説・音楽・絵画・写真・プログラムなど、創作的な表現を保護する権利。創作した時点で自動的に発生し、登録は不要なのが特徴です。
  • 特許権新しい発明(技術的なアイデア)を保護する権利。出願して認められる必要があります。
  • 商標権:商品やサービスの目印となるマークや名前(ブランド)を保護する権利。
  • 意匠権製品のデザイン(形・模様・色)を保護する権利。

攻略MEMO 4つの権利は「何を守るか」で区別する。 ・著作権=創作的な表現(自動発生) ・特許権=発明(出願が必要) ・商標権=マーク・ブランド ・意匠権=デザイン 「著作権は登録不要で自動発生」は頻出ポイント。

肖像権とパブリシティ権

知的財産権とは別に、人の姿や名前に関する権利もあります。

  • 肖像権自分の顔や姿を、勝手に撮影・公表されない権利。誰もが持つ権利です。
  • パブリシティ権:有名人の名前や肖像が持つ「お客を引きつける経済的な価値」を保護する権利。芸能人の写真を無断で広告に使う、といった行為がこの権利の侵害にあたります。

両者の違いは、肖像権が「プライバシー(誰もが持つ人格的な権利)」を守るのに対し、パブリシティ権は「経済的価値(主に有名人)」を守る点にあります。生成AIで実在の人物の顔や声を再現する場合、これらの権利の侵害に注意が必要です。

不正競争防止法(営業秘密・限定提供データ)

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を守るための法律です。生成AIとの関係で押さえたいのが、次の2つの概念です。

  • 営業秘密:企業が秘密として管理している、事業に有用な情報(製法、顧客リスト、ノウハウなど)。一定の条件を満たすと、この法律で保護されます。生成AIに営業秘密を入力して漏れてしまうリスクは、実務上の大きな論点です。
  • 限定提供データ:特定の相手にだけ提供される、商業的価値のあるデータ。これも一定の条件下で保護の対象になります。

AI生成物に関する権利――最も新しく、難しい論点

最後に、生成AIならではの新しい論点に入ります。AIが生み出したもの(生成物)をめぐる権利の問題です。試験でも実務でも重要なので、3つの観点で整理します。

① AI生成物が、既存の権利を侵害する可能性 生成AIは、大量の既存データを学習しています。そのため、出力された生成物が、たまたま既存の著作物とよく似てしまい、著作権侵害になるおそれがあります。また、実在の人物について事実でない不名誉な内容を生成すれば、名誉毀損にあたる可能性もあります。AIが作ったから免責される、ということはありません。使う人間が責任を負うのが原則です。

② AI生成物に関する事実確認 第2章のハルシネーションを思い出してください。生成物には、誤った事実が含まれることがあります。そのまま公表すれば、誤情報の拡散や、他者への権利侵害につながります。生成物は、公表前に人間が必ず事実確認することが欠かせません。

③ AI生成物の著作権の所在 「AIが作った絵の著作権は、誰のものか?」という問題です。日本の現在の考え方では、著作権は人間の創作的な関与(思想・感情の創作的な表現)があってこそ発生するとされています。

そのため、人間がほとんど関与せず、AIが自動で生成しただけのものは、著作権で保護されない可能性が高いと整理されています。一方、人間がAIを「道具」として使い、プロンプトの工夫や選択・加筆などで創作的に関与した場合は、その人に著作権が認められうる、と考えられています。ただしこの分野は今まさに議論が続いている発展途上の領域であり、ケースによって判断が分かれます。実務で迷う場合は、最新の公式見解(文化庁の整理など)を確認することが大切です。

攻略MEMO AI生成物の3つの注意点を押さえる。 ①既存の著作権・名誉を侵害するおそれがある(責任は人間) ②ハルシネーションがあるので事実確認が必須 ③著作権は人間の創作的関与があってこそ。AI任せの自動生成は保護されにくい。

4-5 AIを取り巻く理念と原則・ガイドライン

ここからは、日本がAIをどう位置づけ、どんな指針で活用しようとしているか、という「理念とルール」の話に入ります。やや抽象的ですが、枠組みを図のように覚えると整理できます。

AI社会の基本理念――目指すべき3つの社会

日本のAI活用の土台にあるのが「人間中心のAI社会原則」という政府の考え方です。その出発点として、3つの基本理念(目指すべき社会の姿)が掲げられています。

  • 人間の尊厳が尊重される社会(Dignity):AIに使われるのではなく、人間の尊厳が守られる社会。
  • 多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity & Inclusion):さまざまな人が、それぞれの幸せを追求できる社会。
  • 持続可能な社会(Sustainability):AIの力で、環境や社会が持続的に発展できる社会。

攻略MEMO 3つの基本理念は、英語のキーワードとセットで覚える。 ・Dignity=尊厳 ・Diversity & Inclusion=多様性と包摂 ・Sustainability=持続可能性 頭文字や英単語で問われることがある頻出項目。

AI社会原則

この3つの理念を実現するために、社会全体(とくに国や開発者)が守るべき原則がAI社会原則です。人間中心の考え方を軸に、安全性・公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティ(説明責任)などが掲げられています。これらは、AIを設計・運用するうえでの「べき論」の土台になっています。

共通の指針――AI事業者ガイドラインの10項目

このAI社会原則を、企業など実際の事業者が取り組みやすい形に整理したのが、AI事業者ガイドラインです。2025年時点の最新は第1.1版(令和7年3月28日公表)で、総務省と経済産業省がまとめたものです。法的拘束力のないソフトロー(自主的な指針)として位置づけられています。

このガイドラインは、すべての事業者が取り組むべき事項を、10の「共通の指針」として整理しています。

1. 人間中心(人権・尊厳・多様性の尊重) 2. 安全性(生命・身体・財産への危害を防ぐ) 3. 公平性(不当なバイアス・差別の排除) 4. プライバシー保護 5. セキュリティ確保 6. 透明性(判断プロセス等の可視化) 7. アカウンタビリティ(説明責任) 8. 教育・リテラシー(関係者への教育) 9. 公正競争確保 10. イノベーション(社会全体の革新への貢献)

すべてを丸暗記する必要はありませんが、「人間中心」を筆頭に、安全・公平・プライバシー・透明性・説明責任といった柱がある、と押さえておきましょう。

高度なAIシステムに関係する事業者に共通の指針

生成AIのような高度なAIシステムを扱う事業者には、上記の共通指針に加えて、より高度な対応が求められます。これは、G7の国際的な枠組みである「広島AIプロセス」で取りまとめられた国際指針・国際行動規範を反映したものです。最先端の基盤モデルや生成AIが、その対象に含まれます。

AIガバナンスの構築

事業者がこれらの指針を実践するには、組織としてAIガバナンス(AIのリスクを管理しつつ便益を最大化する仕組み)を構築する必要があります。ガイドラインでは、その進め方として次のような要素が示されています。

  • 環境・リスク分析:自社を取り巻く状況と、AIによって生じうるリスクを分析する。
  • AIガバナンス・ゴール:目指すべき姿(たとえば自社の「AIポリシー」)を定める。
  • AIマネジメントシステム:そのゴールを達成するための、組織的な管理の仕組みを運用する。

「分析し、ゴールを定め、仕組みで回す」という流れで、AIを安全に活用する体制を整えるわけです。

AIの事業活動を担う3つの主体

最後に、ガイドラインが定める重要な役割分担を押さえます。AIの事業活動を担う立場を、3つの主体に分けて整理しています。

  • AI開発者(AI Developer):AIモデルやAIシステムを開発する事業者。
  • AI提供者(AI Provider):開発されたAIを、製品やサービスに組み込んで利用者に提供する事業者。
  • AI利用者(AI Business User):事業活動の中で、AIシステム・サービスを利用する事業者。

それぞれの立場で、果たすべき役割や注意点が異なります。たとえば、生成AIを業務で使うだけの一般企業は「AI利用者」にあたります。同じ会社が複数の立場を兼ねることもあります。

攻略MEMO 3つの主体は「開発する・提供する・利用する」で覚える。 ・開発者(Developer)=作る ・提供者(Provider)=組み込んで届ける ・利用者(Business User)=業務で使う 「自社サービスにAIを組み込んで顧客に提供する」のは提供者、というように、役割で判断する。

4-6 AI新法――日本のAIをめぐる新しい法律

第4章の締めくくりは、2025年に成立したAI新法です。シラバス改訂で新しく加わった、最新かつ重要なテーマです。

AI新法の必要性――なぜ作られたのか

正式名称は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」です。通称でAI新法(AI法・AI推進法とも)と呼ばれ、2025年6月4日に公布同年9月1日に全面施行されました。

なぜ、この法律が必要とされたのでしょうか。背景には2つの事情があります。

ひとつは、日本のAI活用が諸外国に比べて遅れていること。もうひとつは、生成AIの普及で、著作権侵害・プライバシー侵害・偽情報など、さまざまなリスクへの不安が高まったことです。そこで、「AIのイノベーションを促進すること」と「リスクに対応すること」を両立させるために、この法律が作られました。

AI新法の基本構造

ここが最も重要なポイントです。AI新法は、規制してAIを縛る法律ではなく、AIの研究開発・活用を後押しする「推進法(基本法)」です。

この点で、違反に厳しい罰則を科すEUのAI法(AI Act)とは、考え方が大きく異なります。AI新法には、原則として直接の罰則規定がありません

法律は全28条で、おおまかに次の4つの柱から成ります。

  • 総則:法律の目的、AIの定義、基本理念、関係者の責務など。
  • 基本的施策:研究開発の推進、人材育成、リスクへの対応など。
  • AI基本計画:政府が、AI推進の基本的な計画を策定する。
  • AI戦略本部:AI政策の司令塔となる組織。内閣総理大臣をトップとして内閣に設置される。

AI新法の内容と、注意すべき具体的なリスク

AI新法は、国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者・国民の、それぞれの責務を定めています。企業(活用事業者)には、国などの施策に協力することが求められます。

罰則はないものの、まったくの無風というわけではありません。不適切なAI利用によって国民の権利利益が侵害された場合、国は事案の情報収集・調査・分析を行い、事業者などに対して指導・助言・情報提供を行います。ただし、AI法自体には、原則として直接の罰則規定はありません。注意すべきリスクとしては、ディープフェイクの悪用や、サイバー攻撃への悪用などが議論されています。

AI事業者ガイドラインとの関連

ここで、4-5で学んだAI事業者ガイドラインとの関係を整理しておきましょう。

  • AI事業者ガイドライン:法的拘束力のないソフトロー(自主的な指針)。「こう取り組むのが望ましい」という具体的な手引き。
  • AI新法:法律(ハードロー)だが、罰則のない推進・基本法。国の体制づくりや基本方針を定める。

両者は対立するものではなく、役割を分担して補い合う関係です。日本は、いきなり厳しい規制で縛るのではなく、ガイドライン(ソフトロー)と推進法(罰則なしのハードロー)を組み合わせて、イノベーションとリスク対応の両立を図ろうとしている――この大きな方向性を理解しておきましょう。

攻略MEMO AI新法の超重要ポイントを3つ。 ①正式名称=「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、2025年6月4日公布規制法ではなく推進法(基本法)。原則、罰則なし(EUのAI法と対照的) ③司令塔は内閣総理大臣をトップとするAI戦略本部 「AI新法には厳しい罰則がある」という記述は誤り、と判断できれば合格レベル。

第4章のまとめ

おつかれさまでした。本講座で最大のボリュームの章を、よく走り抜けました。地図にして振り返りましょう。

  • インターネットリテラシー:技術理解・情報リテラシー・セキュリティ・デジタル市民権からなる、安全に使う基礎力。
  • セキュリティの脅威:フィッシング(SMS版=スミッシング、電話版=ヴィッシング、狙い撃ち=スピアフィッシング)、マルウェア・ランサムウェア、人をだますソーシャルエンジニアリング(プレテキスト・ベイト・ブラックメール)。生成AIが攻撃を高度化させている。
  • 個人情報:個人情報保護法と個人情報保護委員会。個人識別符号、特に慎重な扱いが必要な要配慮個人情報(人種・病歴・犯罪歴など)、匿名加工情報とマスキング。生成AIへの安易な入力は禁物。
  • 権利:知的財産権(著作権・特許権・商標権・意匠権)、肖像権・パブリシティ権、不正競争防止法(営業秘密・限定提供データ)。AI生成物は既存権利を侵害しうる(責任は人間)、事実確認が必須、著作権は人間の創作的関与があってこそ。
  • 理念と指針:3つの基本理念(Dignity・Diversity & Inclusion・Sustainability)、AI社会原則、AI事業者ガイドライン第1.1版の10の共通の指針、AIガバナンスの構築、3つの主体(開発者・提供者・利用者)。
  • AI新法:「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(2025年6月4日公布・9月1日全面施行)。罰則なしの推進法・基本法。司令塔はAI戦略本部。ガイドライン(ソフトロー)と補い合う。

ここまでで、生成AIを「安全に・正しく使う」ためのルールと責任を一通り押さえました。技術・できること・ルールがそろい、土台は完成です。最終章となる第5章では、いよいよ実践――テキスト生成AIへの具体的なプロンプトの作り方と、ビジネスでの活用法へと進みます。学んだ知識を、実際に「使える力」に変えていきましょう。

確認問題

まずは答えを隠して挑戦してみましょう。

問1 SMS(ショートメッセージ)を悪用したフィッシング詐欺を何と呼ぶか。

  • A. ヴィッシング
  • B. スミッシング
  • C. スピアフィッシング
  • D. ベイト攻撃
問1 の解答を見る

正解:B(スミッシング)

SMSを使ったフィッシングがスミッシングです。電話(音声)を使うものはヴィッシング、特定の標的を狙うものはスピアフィッシングです。

問2 感染するとデータを暗号化し、復旧のために身代金を要求するマルウェアはどれか。

  • A. アンチウイルスソフトウェア
  • B. ランサムウェア
  • C. プレテキスト
  • D. マスキング
問2 の解答を見る

正解:B(ランサムウェア)

データを暗号化して身代金を要求するのがランサムウェアです。アンチウイルスソフトはそれを防ぐ側のツールです。

問3 技術ではなく、人間の心理の隙につけこんで情報を盗む攻撃の総称はどれか。

  • A. ソーシャルエンジニアリング攻撃
  • B. ランサムウェア
  • C. フィッシングサイト
  • D. 個人識別符号
問3 の解答を見る

正解:A(ソーシャルエンジニアリング攻撃)

人の心理の隙をつく攻撃の総称です。プレテキストやベイト攻撃は、その具体的な手口にあたります。

問4 要配慮個人情報に当てはまらないものはどれか。

  • A. 病歴
  • B. 犯罪の経歴
  • C. 人種
  • D. 勤務先の電話番号
問4 の解答を見る

正解:D(勤務先の電話番号)

要配慮個人情報は、病歴・犯罪歴・人種など、差別や偏見につながりうる情報です。勤務先の電話番号はこれに当たりません。

問5 特定の個人を識別できないように加工し、元に戻せないようにした情報を何と呼ぶか。

  • A. 要配慮個人情報
  • B. 個人識別符号
  • C. 匿名加工情報
  • D. 営業秘密
問5 の解答を見る

正解:C(匿名加工情報)

特定の個人を識別できないように加工し、復元もできないようにした情報が匿名加工情報です。一定のルールのもとで活用できます。

問6 知的財産権に関する記述として正しいものはどれか。

  • A. 著作権は特許庁に出願して初めて発生する
  • B. 著作権は創作した時点で自動的に発生する
  • C. 意匠権は発明を保護する権利である
  • D. 商標権はデザインそのものを保護する権利である
問6 の解答を見る

正解:B

著作権は、創作した時点で自動的に発生し、登録は不要です。特許権は出願が必要、意匠権はデザイン、商標権はマーク・ブランドを保護します。

問7 有名人の名前や肖像が持つ経済的価値を保護する権利はどれか。

  • A. 肖像権
  • B. パブリシティ権
  • C. 意匠権
  • D. 限定提供データ
問7 の解答を見る

正解:B(パブリシティ権)

有名人の名前・肖像の経済的価値を守るのがパブリシティ権です。肖像権は誰もが持つ、勝手に撮影・公表されない権利です。

問8 日本における現在の考え方として、AI生成物の著作権に関する説明として最も適切なものはどれか。

  • A. AIが自動生成したものには、必ず開発企業の著作権が発生する
  • B. 人間の創作的な関与があってこそ著作権が認められうる
  • C. AI生成物は一切、著作権の対象にならないと確定している
  • D. 著作権は生成AIそのものに帰属する
問8 の解答を見る

正解:B

日本の現在の考え方では、人間の創作的な関与があって初めて著作権が認められうるとされます。AI任せの自動生成は保護されにくく、この分野は議論が続いています。

問9 AI事業者ガイドラインが定める「AIの事業活動を担う3つの主体」の組み合わせとして正しいものはどれか。

  • A. AI開発者・AI提供者・AI利用者
  • B. 国・地方公共団体・国民
  • C. 生成器・識別器・データ提供者
  • D. Dignity・Diversity・Sustainability
問9 の解答を見る

正解:A(AI開発者・AI提供者・AI利用者)

ガイドラインは事業活動の主体を、開発者・提供者・利用者の3つに整理しています。それぞれ役割と注意点が異なります。

問10 AI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)に関する記述として正しいものはどれか。

  • A. 違反者に厳しい刑事罰を科す規制法である
  • B. AIの研究開発・活用を推進する基本法で、原則として罰則はない
  • C. EUのAI法を日本がそのまま導入したものである
  • D. 2020年に施行された法律である
問10 の解答を見る

正解:B

AI新法は、AIの研究開発・活用を推進する基本法で、原則として罰則がありません。罰則のあるEUのAI法とは対照的です。公布は2025年6月4日です。

次の章へ ここまでで、生成AIの仕組み・最新動向・安全に使うためのルールを、すべて押さえました。いよいよ最終章です。第5章では、テキスト生成AIを実際にどう使いこなすか――プロンプトの基礎から、文章作成・要約・翻訳といったビジネス応用、そしてAIの「不得意なこと」まで、知識を実践に変えていきます。試験対策の総仕上げであり、合格後すぐに役立つ章です。

▶ 第5回 プロンプト制作と実例 へ

▼生成AIパスポート合格講座(全6回)

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この記事を書いた人

西俊明(トシゾー)のアバター 西俊明(トシゾー) 中小企業診断士/AI実践戦略士/IT講師・著者

中小企業診断士/AI実践戦略士(商標出願中)/IT講師・著者。富士通で17年間、IT製品の営業・マーケティングに従事した後、独立。中小企業を中心に270社超を支援し、研修・セミナーへの登壇は250回を超える。現在は、生成AI・ITを経営や業務に生かす実践的な方法と、ITパスポート、情報セキュリティマネジメント、基本情報技術者試験などの学習法・過去問解説を発信している。著書に『改訂7版 ITパスポート最速合格術』など。

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