こんにちは、トシゾーです。
今回は、技術経営(MOT)について、説明します。
技術経営のMOTとは、Management of Technologyの訳であり、企業が持つ独自技術をビジネスに貢献できるよう、適切に管理・推進していく経営のことをいいます。
現在、技術経営(MOT)は、企業経営において、非常に重要であり、注目されています。
なぜならば、科学技術の発展に伴い、企業が競争優位性を獲得する上で、技術の存在はますます重要となっているからです。
技術経営(MOT)においては、技術の創出と発展を経営全体と密接に結びつけ、戦略的にマネジメントをしていきます。
現代社会においては、不確実性が高まっています。このような中、企業にとって、継続的にイノベーションを推進していくことは欠かせません。
そうは言っても、新たな技術を創出し育てていくことは大変なコストがかかるものです。
そのような理由から、「どのような技術を自社で創出し、育て、事業化していく」のか、適切な意思決定を行うことが重要です。
仮に、自社の競争優位に貢献しない技術ならば、高いコストを払って自社内で育成することなく、外部資源を活用する方が適切だと言えるでしょう。
このような考え方により、技術経営(MOT)とは、自社にとって必要なイノベーションを選択・創出し、育成・発展する、イノベーション全体のマネジメントである、ともいえます。
技術経営(MOT)自体は、本来、非常に広範な分野を含みますが、ここでは、中小企業診断士試験に関連する点を中心に見ていきましょう。
※MOTについては下記動画でも説明していますので、よろしければ参考にしてください。
目次
技術戦略
技術戦略における技術の類型
技術戦略とは、技術経営(MOT)の中角となる戦略のことであり、技術戦略においては、企業が市場において競争優位性を維持するため、技術を獲得する手法や、獲得技術の優先順位を決定します。
技術戦略の対象となる技術には、大別して、以下2種類の戦略があります。
- 製品そのものの技術(製品技術)
- その製品を効率よく製造していくための技術(製法技術=プロセス技術)
技術経営(MOT)においては、技術戦略を最初に検討し、経営戦略や事業戦略と整合性をとって進めていきます。
技術戦略の策定プロセス
経営学者のマイケル・ポーターは、技術戦略を策定するためには、7段階のプロセスがあるとしました。
ポーターの技術戦略策定プロセス 第1のプロセス
まずは、製品やサービスに価値を与えると考えられる技術を、モレなく洗い出します。
ポーターの技術戦略策定プロセス 第2のプロセス
自社の業界だけでなく、他の業界の技術、さらには、研究途上の技術についても、使えそうなものを洗い出します。
ポーターの技術戦略策定プロセス 第3のプロセス
「キーテクノロジ」といわれるような、各界から注目を浴びている技術が、「どのような方向に進んで行きそうか」を予測します。
ポーターの技術戦略策定プロセス 第4のプロセス
自社の属する業界において、「どのような技術が、もっとも競争優位的なポジションを取れそうか」という観点から、優先順位をつけます。
ポーターの技術戦略策定プロセス 第5のプロセス
ここまで洗い出した主要技術に対して、その技術を自社で育成できるかどうかを判断します。
ポーターの技術戦略策定プロセス 第6のプロセス
自社で育成すべき技術、外部から獲得(補完)すべき技術を明らかにし、自社の総合競争力を強化するような技術戦略を立案します。
以上が、技術戦略の策定プロセスになります。
技術の評価方法
技術の評価方法は、「定性的評価」と「定量的評価」の2つに大別されます。
具体的には、次のような評価方法があります。
スコアリング技術評価法
定性的評価の手法の1つです。
評価対象の技術における、他社競合状況や革新性、市場規模、事業成長率、顧客への提供価値、経営戦略における重要度、リターン、リスク等を検討し、スコアをつけて評価していくものです。
ROIシミュレーション
定量的評価の手法の1つです。
製品の開発を始めてから、黒字になるまでの想定期間、および、数年後におけるリターンの想定倍率などをインプットし、それを元に予想リターンマップを作成します。この予想リターンマップにPC上でシミュレーションを加えたものです。
DCF法
定量的評価手法の1つです。
将来のキャッシュフローを予測し、そこから現在価値を割り引いて評価額を決定します。その評価額がプラスの場合いnであれば投資を実施します。
リアルオプション法
定量的手法の1つです。
金融オプションの手法を応用したものです。不確実性の高い場合に適応しやすい評価方法です。
外部資源の活用について
すべての技術を、自社で研究・開発することは、多くの場合、適切な手法とはいえません。
自社に必要な技術をモレなく獲得するためには、独自に開発するだけではなく、他企業や大学などの外部資源と連携していくことが必要であり、技術経営においては、そうした判断を適切に実施していくことになります。
外部資源を活用するメリット
外部資源を活用することで、どのようなメリットが生まれるでしょうか。
まず、競争優位性の確保が可能、と言うことが挙げられます。つづいて、すべてを自社で行うわけではありませんから、リスク分散が可能、という点も、メリットと言えるでしょう。
さらに、自社だけでは獲得が難しい新技術の獲得も、外部資源を活用すれば実現しやすくなるでしょう。
外部資源の活用 具体的な方法
買収(吸収合併)
買収(吸収合併)は、外部資源の活用としては、最も強固な手段です。
買収先企業の資源(技術、販売チャネル等)が総合的に入手できるため非常に効率が高いというメリットがある一方、つぎのようなリスクを考慮する必要があります。
- 買収して統合する2社の社内文化の統合が難しい
- 被買収企業から、優れた社員が辞めてしまう
- 当初のコスト(買収コスト)として、巨額の支出が発生する
ジョイントベンチャー(JV)
ジョイントベンチャー(JV)とは、2社以上の企業が資金を出し合って設立する会社のことであり、合弁会社ともいいます。
たとえば、技術に強みがある企業と、マーケティングに強い企業がJVを組めば、それぞれの強みを活かし、単純な足し算以上の力を発揮する可能性があります。
その一方、デメリットとしては、両社の交渉や契約、JV事業の運営の難易度が挙がってしまう点が考えられます。
さらに、それぞれの企業の持つ秘密情報の流出にも気を配る必要があります。
共同研究
緩い結びつきで、2つの会社の相乗効果を狙う手法です。
ただし、対等な条件で締結できる相手が簡単には見つかりにくい、いった問題があります。
また、実際に成果が出た場合の配分をどうするかなど、契約内容を詰めるのも難しいといえるでしょう。
研究委託
情報流出さえ気を付ければ、相対的に安価なコストで成果の出しやすい方式です。
ライセンシング
ライセンシングとは、他社から特許の使用権を付与されることです。
すぐに他社の独占技術を利用可能ですが、その技術がユニークなものであればあるほど、ライセンス使用価格も高価になります。
特許戦略
特許戦略といえば、「特許をどう活用するか」「特許を同取得するか」などを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
しかし、実際には、「特許を取得・活用する」の他にも、「特許を取得するが活用しない」あるいは、「特許を取得しない」という方策を活用するケースも多々あります。
具体的に見ていきましょう。
特許を取得・活用するケース
特許を取得・活用するケースには、自社で自ら技術を活用するケースの他、第三者に対し、有償で取引を行う場合もあります。
第三者に対する取引形態には、以下の3種類があります。
移転
特許権を譲渡することです。
移転を行うと、特許権者は、その特許に対する全ての権利を失います。
また、特許の譲渡を受けた方が特許の効力を得るためには、特許登録原簿に登録することが必要です。
ライセンス供与
ライセンス供与とは、相手側に特許の使用権を与えることです。
ライセンス供与(ライセンス契約)は、専用実施権と通常実施権があります。これらの違いは、契約の定めた範囲で独占的に利用できるかどうか、ということです。
一般的に、ライセンス供与を受けた側は、ライセンス供与元(特許権者)に、ロイヤリティ(実施料)を支払うことになります。
ロイヤリティには、以下の2種類があります。
- 利用実績(生産実績、販売実績など)に応じて支払う形式
- 定額形式
クロスライセンス
クロスライセンスとは、それぞれ別の特許を持つ企業同士が居、互いにライセンス供与を実施し合う形式のことです。
特許の評価額が同等であればキャッシュの動きは発生しませんが、互いの特許の価値(評価)に差がある場合は、特許料の差額を支払います。
特許を取得するが活用しないケース
特許を取得するが、活用しないケースにおいて、まず考えられるのは「自己防衛」です。
その他には、「現在は特許を使用しないが、将来は使用する可能性がある」といったことも考えられます。
特許を取得しないケース
ユニークな技術があるのに、あえて特許を取得しないケースもあります。
これは、その技術の情報を、完全に「非公開」にしたいケースです。
特許の取得とは、社外に知識を公開する、ということです。
特許を取得するということは、その知識・技術に対する利用独占権は特許権者の物になるということですが、一方で、他社が、公開された特許を元に新たな研究を行うことは、法律で認められています。
そのため、どうしても内密にしておきたい技術については、あえて特許を取得しないという戦略があるのです。
研究開発管理
研究開発組織について
研究開発組織に求められること
研究開発組織に求められることを、ひとことで言えば、「研究開発が推進しやすい組織」となるでしょう。
そのためには、研究者同士のコミュニケーションを活性化させるような組織体であることが必要です。
また、他の部門と連携がとりやすい組織であれば、研究成果の実用化も進むでしょう。
さらには、研究者にとって、市場ニーズの把握は重要です。そのため、顧客との接点である営業部門との連携しやすい組織であることも求められます。
研究開発組織の組織形態
研究開発組織と事業部の関係性は、非常に重要な問題です。
研究開発組織が、その関連する事業部から「独立的」な場合、研究の自由度は高くなります。
しかし、事業部に従属した研究開発組織のほうが、事業内容と関連した研究内容となります。
以上のように、一概に、どちらがよいと言える問題ではなく、さまざまな条件を加味しながら、最適解を探すことが必要です。
研究開発プロセスの概要
研究開発(R&D : Research & Development)は、以下のように、3つのフェーズに大別されます。
基礎研究
実験的・理論的な研究のことであり、実用性などは求めず、新たな知識・気づきの獲得を目標としたものです。
応用研究
応用研究とは、基礎研究を元にした新しい知識に対し、実用化の可能性を探るものです。
開発研究
開発研究とは、基礎研究や応用研究を経て獲得した新知識をもとに、実際の商品・サービスに結びつけることを目的とした研究のことです。
技術経営(MOT) <まとめ>
ここまで、企業が技術を適切にマネジメントする手法など、様々に見てきました。
必要な技術を適切に創出する、ということは本当に難しいものです。今回の記事で、その難しさの一端をうかがい知ることができたのではないでしょうか。
次回は、企業の社会的責任(CSR)について、ご説明します。