今回は、「行政書士法人」について、説明します。
行政書士法人は、新しい組織形態のため、
「名前は聞いたことがあるけど、中身はよく分からない」
という方も多いのではないでしょうか。
カンタンに言えば、「複数の行政書士が集まって作った会社」ということなのですが、前述のとおり、まだ新しい形態なので、行政書士法人の数自体は、そう多くありません。
しかし、将来的には、
「行政書士試験に受かったばかりの新米行政書士が雇用されて勤務し、仕事を覚える」
ためのメジャーなルートになるのではないでしょうか。そうすれば、安心して他業界から行政書士業界に飛び込んでくる方も増えそうですよね。
そのような行政書士法人について、一緒に見ていきましょう。
目次
行政書士法人とは?概要をまとめてみた! 資本金は?
従来までは、官公庁に提出する書類の作成や手続きを行う行政書士は、法人化することができませんでした。
しかし、平成16年8月1日施行の行政書士法の改正に伴い、行政書士が在籍する事務所の法人化が認められています。
行政書士法人とは、2名以上の行政書士が定款を定めて業務を行う法人のことです。
以下では、行政書士法人の概要について簡単にご案内しましょう。
- 2名以上の行政書士が集まった法人で、全員が理事になる
- 一人に不祥事があれば全員の連帯責任になる
- 出資金は必要だが、資本金の定めは特になし
- 行政書士の社員が一人になり、6ヵ月以内に2人以上にならないと法人を解散しないといけない
行政書士法人は一般的な株式会社とは違って合名会社と同様に見なされるため、2名以上が共同で設立して経営にあたるのが条件です。
「行政書士法人」=「行政書士パートナーズ」?
世の中にある行政書士法人は、名称に「行政書士パートナーズ」と入れているところが多いです。
ただ、特に「行政書士法人」の英訳が「行政書士パートナーズ」かというと、そのような訳ではないようです。
知り合いの行政書士法人に勤務する先生に聞いたところ、
「おそらく2人以上で設立するからパートナーズと名乗るところが多いのだろう。なんか横文字でカッコいいしね!」
と仰っていました(笑) あまり深い理由はなさそうです。
行政書士法人を設立するメリット
なぜ行政書士法人を設立した方が良いのか、いくつかのメリットを見ていきましょう。
- 個人事務所では所長の個人が死亡すると即廃業になるのに対して、行政書士法人は2名以上が経営にあたっていれば永続的に存続できる
- 法人としての永続性のアピールで信用力が増し、行政書士として中堅企業や大手企業と取引がしやすくなる
- 様々な専門分野の行政書士を集めることが可能で、幅広い業務に対応できるようになる(顧客に対してきめ細かなサービスを提供できる)
- 「月々の保険料を半分もしくは全額を損金扱いにできる」「生命保険を利用して退職金を準備できる」など税制面でのメリットが大きい
- 支店として複数の事務所を設立可能で、地域密着型のサービスを行いながらも市場を拡大できる
高度に専門化した質の高いサービスを顧客に提供する目的で、行政書士法人を設立する事務所は増えていくと思われます。
行政書士法人を設立するデメリット
行政書士法人は、信用面や税金面での強みがあります。
しかし、平成25年度当初の行政書士法人の数は全国で250社ほどで、約43,000名の行政書士登録者数がいる点を加味するとまだまだ少ないのが現状です。
そこで、行政書士法人を設立するにあたり、どのようなデメリットがあるのか見ていきます。
- 共同で法人を設立する形になるため、信頼できるビジネスパートナーを選ばないといけない(パートナー選びで失敗しやすい)
- 行政書士としての実務能力だけではなく、法人を運営する経営者としてのスキルも求められる
- 登録免許税のほかに諸費用が発生する(株式会社や合同会社で電子定款としないケースでは印紙代の40,000円がかかる)
- 法人の場合は赤字経営でも、毎年都道府県税と市民税を合わせて約7万円を納める必要がある
- 役員が2人以上だと意思決定は独断ではなくなるため、仕事のスピードが鈍化する(合議が必要になる)
信用力や業務の幅が広がる行政書士法人も、良い部分だけではありません。
行政書士法人を設立する際は、メリットとデメリットの両方を把握した上で手続きを進めるべきです。
行政書士法人を設立する方法や手続き
どうやって行政書士法人を設立すれば良いのか、まだ知らない方が大多数でしょう。
一般的な株式会社とは違い、行政書士法人の設立は方法や手続きが変わります。
まず最初に、法人設立に関する次の書類を作成しましょう。
- 行政書士法人成立届出書(東京都内に主たる事務所を設立する場合にのみ必要)
- 行政書士変更登録申請書(社員になる行政書士は登録事項が変わる)
- 東京都行政書士会入会届(法人)(都道府県の行政書士会への入会が必要)
- 行政書士法人職印(改印)届
- 行政書士法人入会届出書
- 登記簿謄本2通(従たる事務所所在地管轄の法務局にて取得したもの)
行政書士法人を設立した時は、成立した日から2週間以内に、主な事務所の所在地に属する都道府県行政書士会を経由してこれらの書類を提出します。
法人の設立だけではなく、下記に該当する場合も都道府県行政書士会を経由して届出をしないといけません。
- 定款を変更した時
- 解散した時
- 合併した時
- 事務所を新設した時
- 事務所を移転した時
行政書士法人の設立の詳しい手続きは、専門家に相談するのが一番です。
個別の状況で行政書士法人のメリット・デメリットは変わりますので、あまり知識に自信がない方が法人化を検討する場合は、税理士に相談してみてください。
行政書士法人の手引き
ここでは、行政書士法人の手引きについて説明していきます。
法人化する上で何が必要なのか、大まかに見ていきましょう。
- 社員資格証明書の取得:行政書士法人の社員としての要件を満たす証明の書類が必要
- 同一名称存否の確認:同一の所在場所における同一の商号の登記は禁止されている
- 定款の作成:定款は法人の目的や組織、業務執行に関する根本的な規則
- 定款の認証:作成した定款は公証人による認証を受ける必要がある
- 設立の登記:定款の作成や認証など、必要な手続きが終了した日から2週間以内に登記を申請する
- 日行連への成立の届出:上記で説明した書類の行政書士法人成立届出書を日行連に提出する
- 設立後の社員等の手続き:行政書士法人を設立した後は、「個人事業の廃止届」や「個人の資産及び負債の法人への引継」を行う
行政書士法人の手引きは、日本行政書士会連合会の公式サイトで記載されています。
※参考:https://www.gyosei.or.jp/wp-content/uploads/2016/03/42219878a69588e5cdbd9643c4c394bc.pdf
行政書士数と比較してみると法人の数はまだまだ少ないので、法人化は他の事務所と差別化を図るチャンスです。
行政書士法人の社員が特定行政書士となった際の留意点
特定行政書士とは、審査請求等の行政不服申立てができる権限を持つ行政書士を指しています。
不服申立てとは、行政機関に対して不服を申し立てて排除を請求する手続きで、飲食店を例にあげて見ていきましょう。
- 飲食店の営業許可についての申請を官公署に提出
- とある理由が原因で不許可とされてしまった
- その行政庁に対し不許可処分の見直しを求める
不服を申し立てて行政の許認可を得るための手続きができる特別な行政書士が、特定行政書士というわけですね。
行政書士法人を設立した事務所で、社員が特定行政書士になるケースは少なくありません。
この場合はいくつかの留意点がありますので、行うべき手続きについてまとめてみました。
- 定款の変更:「目的に関する定め」と「社員に関する定め」を追加し、定款を変更する
- 変更の登記:登記事項に変更が生じた際は、2週間以内に主たる事務所の所在地で変更の登記をする
- 日本行政書士会連合会への届出:定款を変更した時は2週間以内に所在地の行政書士会を経由して日本行政書士会連合会に届け出る
- その他:行政書士法人の名称及び事務所の名称の変更を検討されている行政書士法人は、日本行政書士会連合会が定める指針を参照する
社員が行政書士から特定行政書士になる際の詳細手続きは、日本行政書士会連合会の「行政書士法人の社員が特定行政書士となった際の留意点」というページをご覧になってください。
参考:https://www.gyosei.or.jp/wp-content/uploads/2016/03/a2848a29bbccab04d13b52613700ab5d.pdf
まとめ
以上のように、行政書士法人を設立するメリットとデメリットについてご案内しました。
個人の行政書士の事務所とは違い、法人化することで信用力が増して業務の幅が広がります。
これまで、一匹狼的な存在が多かった行政書士にも、行政書士法人が増えることにより、雇用されるサラリーマン的な行政書士が多くなると考えられます。
雇用(勤務)の他の働き方としては「副業」や「独立・開業」などがあります。行政書士の副業については、下記をご参考ください。