こんにちは、トシゾーです。
今回は、中小企業診断士二次試験の事例4(財務・会計の事例)で出題される「意思決定会計」に関する記事です。
意思決定会計といえば、毎年のように事例4に出題され、その難易度の高さから「事例4のラスボス」のような扱いを受けている分野ですよね。
現役の中小企業診断士や受験生のなかでも、以下のような言説がされているのを、よく耳にします。
- 意思決定会計は捨て問だね
- 計算過程だけ、しっかり書いておけばよい(部分点狙い)
- 一番最後に解くべき問題
・・・・確かに、ラスボス感満載です。
なぜ、このように難易度が高いかといえば、「キャッシュフロー」「NPV法」「回収期間法」「資本コスト」など様々な要素が発生し、計算が細かいうえに、試験時間が潤沢ではない、ということが主な理由でしょう。
ただ、決して「正答は無理」なことはありませんし、ポイントさえ押さえれば、限られた時間内で一定以上の部分点を取ることも可能でしょう。
そこで、この記事では、意思決定会計について、くわしく説明していきたいと思います。
なお、記事の構成としては、
- 意思決定会計の概要
- 事例4の意思決定会計の問題の解き方
の順番で説明していきますので、「概要は知っているよ」という方は、後半の「問題の解き方」から読んで頂ければと思います。
※中小企業診断士二次試験全体の対策に関する記事はこちら
※事例Ⅳ全体の対策に関する記事はこちら
意思決定会計の概要
企業会計は、以下2つに大別されます。
- 制度会計
- 管理会計
前者は、法制度により作成を要請されている会計であり、後者は自社の内部で利用する会計です。
意思決定会計は、上記のうち管理会計に属する会計であり、「戦略管理会計」とも呼ばれます。
ざっくり言えば、「戦略的なレベルで意思決定を行うための会計」というイメージです。
そもそも、管理会計そのものが、「自社の内部で使う会計であり、何かしらの判断に利用するもの」となります。
意思決定会計以外では、業績管理にも管理会計は使われます。業績管理とは、その名のとおり予算と実績(予実)を定期的にチェックしながら業績を管理していくこと。
管理会計は、これら「意思決定会計」と「業績管理会計」の2つに大別されると考えてよいでしょう。
また、意思決定会計は「戦略管理会計=戦略レベル→経営者等が行う大きな判断のレベル」で意思決定が行われる、と考えられることが多いのですが、実際には、、戦略レベル以外の意思決定会計もあります。
個人的には、狭義の意思決定会計は「戦略レベル」、広義の意思決定管理会計には、それ以下のレベルもある、というふうに考えています。それらについては後述します。
※制度会計と管理会計について、くわしく知りたい方は下記記事をどうぞ。
企業の意志決定プロセス
会計そのものの話に入る前に、企業の意思決定プロセスを確認しておきましょう。
意思決定のプロセスは、以下のような流れになります。
- 問題の確認
- 問題解決ための複数の代替案の提示
- 代替案の比較検討
- 実施すべき代替案の決定
意思決定会計は、代替案の検討に必要な材料を提供する会計、と考えて間違いありません。
意思決定会計の種類
前述のとおり、意思決定会計は「戦略管理会計」と呼ばれます。これは、「戦略的意思決定(構造的意思決定)」と呼ばれることもあります。
「構造」という言葉には「全社の構造に影響を与える」というイメージが感じられますね。
具体的な例を挙げると・・・
- 生産設備を取り替えるかどうか判断する
- 新商品・新サービスを開発するかどうか判断する
- 新しい市場を開拓するかどうか判断する
- 企業買収(M&A)をするかどうか判断する
- 海外進出、拠点進出、工場の設立 など
以上のような経営層レベルの判断に必要な材料を提供するのが、意思決定会計になります。
このように、狭義の意思決定会計は「戦略レベル=全社レベル」で経営層が参考にする会計なのですが、
前述のとおり、広義の意思決定会計には、ミドルマネージャー層や現場レベルで使われる意思決定会計もあります。それが以下となります。
意思決定会計(広義)の種類
- 業務的意思決定(戦術的意思決定):現場レベルで日常的な判断として行われる意思決定
- 管理的意思決定:部長や課長など、ミドルマネージャーのレベルで判断をするための意思決定
差額収益分析とは?
意思決定会計で複数の代替案から最適な案を選ぶ際には、差額収益分析を行います。
以下、差額収益分析において知っておきたい概念に、「差額収益」「差額原価」「機械費用」「埋没原価」の4つがあります。
それぞれ、カンタンに見ていきましょう。
差額収益:
代替案Aと代替案Bがあった場合、Aを採用した場合の収益とBを採用した場合の収益の差額のことです。
差額原価(差額費用)
代替案Aを採用した場合に発生する原価(費用)と、代替案Bを採用した場合の原価(費用)の差額のことです。
機会費用(機会原価)
代替案Aを採用した場合、選ばれなかったB案を採用した場合に得られたと考えられる利益のことです。
「獲得できる予定の機会を喪失してしまった利益」ということから、費用(原価)扱いするわけです。
埋没費用(埋没原価)
どの代替案を選んでも、必ず発生する費用(原価)のことです。中小企業診断士受験生の方ならよく知っている(と思われる)「サンクコスト」のこと。
過去にどれだけサンクコストが発生していようが(あるいは、現在進行形で発生していようが)、将来の意思決定には影響を与えないため、サンクコストに引き釣られて、意思決定の判断材料に含むことはNGです。
事例4の意思決定会計の問題の解き方
ここから、中小企業診断士二次試験事例4の「意思決定会計」の問題の解法について記載します。
意思決定会計の問題では、複数の投資等の代替案を評価し、最適な投資案を選びます。
それぞれの投資案には、キャッシュインフロー(CIF)とキャッシュアウトフロー(COF)が発生し、その合算である「正味キャッシュフローが最大な代替案を選択する」などの意思決定を行います(※回収時期など、問題によっては別の軸で判断するケースもあります)。
そして、CIFなどの計算をする際、考慮しなければならないのが「貨幣の時間価値」です。
貨幣の時間価値
貨幣の時間価値とは「利子率」などを考慮すること
貨幣の時間価値とは、たとえば、以下のような考え方です。
- 現在の1万円と1年後の1万円では、現在の1万円のほうが価値がある。
- 利子率が3%ならば、現在の1万円と1年後の10,300円の価値は同じである。
- 1年後の1万円を現在の価値に直すと、10,000÷(1+0.03)=10,000×0.9709=9,709円
つまり、「まったく同じ金額が発生するならば、現在に近いほうが価値が高く、将来であればあるほど、価値が低くなる」ということです。
現在価値と将来価値
貨幣の時間価値の考え方においては、「現在価値」「将来価値」という用語を使います。具体的な使い方は以下のとおり。
- 1万円の3年後の将来価値は10,300円
- 1年後の1万円の現在価値は9,709円
複利現価係数
ここで、現在価値のことを考えてみます。上記では「(1+0.03)で割り戻す」→「0.9709を掛ける」わけですが、この「0.9709」のことを、複利現価係数といいます(この場合は、利子率3%かつ1年目の複利現価係数)。
なお、複利現価係数は、通常、設問で与えられますので、覚える必要はありません。また、利子率のことを割引率ということがあります。
「割引率」と「資本コスト」「期待収益率」
前述のとおり、将来発生するキャッシュフローの現在価値を求めるには、「割引率(利子率)」を使います。
「割引率として利子率を使う」というのは、金融機関(銀行)の利子をベースとした考え方です。
一方、割引率として「資本コスト」や「期待収益率」を使うという考え方もあります。
- 資本コスト:企業が市場から資金を調達するのに必要なコスト
- 期待収益率:投資家が、投資した金額に対して期待するリターン
実は、「資本コスト」と「期待収益率」は同じ金額になります。同じものを「企業経営者(調達側)から見ているのか/投資家側から見ているのか」という視点の違いなのです。
そして、資本コストも期待収益率も、経営者や投資家にとって「利子(利息)」のようなもの。
以上が、割引率として「資本コスト」や「期待収益率」を使うことがある理由です。
※実際の問題では、「割引率に何を使うか(および、その率)」は設問に明示されますので、その指示に従いましょう。
この項のまとめ:
- キャッシュフローでは、時間価値を考慮する
- n年後の貨幣の現在価値:貨幣価値÷(1+割引率)×n乗
- 割引率としては、利子率のほか、資本コストや期待収益率などが使われる
(つづく)
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この記事の内容は、中小企業診断士試験の「財務・会計」の科目で学ぶものです。
「財務・会計」について詳しくは、下記の記事を参考にしてください。